138 研究系及び研究施設の現状
長 門 研 吉(助教授)
A -1)専門領域:大気化学、大気電気学
A -2)研究課題:
a) イオン移動度/質量分析システムの開発 b) 対流圏大気中におけるイオン−分子反応
c) イオン−分子反応を利用した大気微量成分測定法の開発
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 大気中のイオンクラスターの性質を明らかにするためには,イオンクラスターの大きさ,質量および化学組成に 関する情報が重要である。これらの情報を同時に得るためにドリフトチューブ型イオン移動度計と四重極型質量 分析計を組み合わせたイオン移動度/質量分析システムの開発を行った。本システムでは大気圧中で生成し一定 時間ドリフトチューブ内で大気中の微量成分とイオン−分子反応させた正・負イオンの,全イオン移動度スペク トル,質量選択移動度スペクトル,および質量スペクトルの測定が可能である。
b) 新たに開発したイオン移動度/質量分析システムを用いて,生成後 10 −数 100 ms の正・負イオン種のサーベイ を行った。正イオンでは始めにNH4+(H2O)nが主要なイオンとして現れるが,時間と共により陽子親和力のより大 きなピリジンやアミン類のイオンが生成していく過程が明らかになった。生成が確認されたイオン種は,ピリジ ン,メチルピリジン,ジメチルアミン,トリメチルアミン,イソブチルアミン,アミノヘキサン,キノリン,メ チルキノリン,などである。また組成が未同定のイオン(質量数 135,149,152,279 amu など)も検出された。 負イオンでは亜硝酸,ギ酸,酢酸,シュウ酸,硝酸のイオンが検出された。これまで対流圏の負イオン反応モデ ルにおいてはギ酸,酢酸,シュウ酸などの有機酸は考慮されておらず,有機酸が重要な役割を果たしていること を初めて明らかにした。
c) イオン移動度/質量分析システムを用いた正・負イオン種のサーベイによって検出されたイオン種の親成分の多 くは対流圏大気化学において重要な役割を果たしているものの濃度が極めて低く(ppb以下),これまで十分な測定 が行われずにいるものである。これらの成分の質量スペクトルによる測定法を検討すると同時に,より簡便な移 動度スペクトルを用いた測定法の開発を行っている。負イオンの場合,移動度スペクトル中のそれぞれのイオン ピークが比較的分離されているためそれらを用いて測定できる可能性がある。また正イオンでは多くのイオンが 同時に存在し移動度スペクトルが複雑であるが,ドリフトチューブ内でのイオンの移動,拡散,および反応によ るスペクトルの変化をシミュレーションすることにより測定する方法を開発中である。
B -1) 学術論文
K. NAGATO, D. TANNER, H. FRIEDLI and F. EISELE, “Field Measurement of Positive Ion Mobility and Mass Spectra at a Colorado Site in Winter,” J Geophys. Res. 104, 3471-3482 (1999).
研究系及び研究施設の現状 139 B -2) 国際会議のプロシーディングス
K. NAGATO, “New Insight into the Role of Tropospheric Ions in Aerosol Formation,” First Asia Aerosol Conference, 342- 343 (1999).
K. NAGATO, “Possible Role of Ions in the Tropospheric Aerosol Formation,” Proceedings of Sixth Scientific Conference of the International Global Atmospheric Chemistry Project (IGAC) 95 (1999).
B -3) 総説、著書
長門研吉 , 「大気イオンの化学組成」, 静電気学会誌 23, 37-43 (1999).
C ) 研究活動の課題と展望
地上付近の下部対流圏におけるイオン化学はすべての地球大気層の中で最も複雑である。新たに開発したイオン 移動度/質量分析システムは下部対流圏におけるイオン種の同定およびイオン反応経路の決定に威力を発揮する ことが確認された。引き続き対流圏イオン化学過程のより詳しい観測・解析を行うと同時に,得られたイオン− 分子反応の情報を利用した対流圏微量成分測定法の実用化を目指す。具体的には大気圧化学イオン化質量分析法 によるこれまでに測定されていない成分も含む多成分同時測定法の開発,および真空装置を使わずに大気圧で測 定できるコンパクトで可搬性の高いドリフトチューブ型移動度計の開発を進める。また,近年対流圏エアロゾル の生成に対するイオンの役割が指摘されており,イオン誘発核生成,およびイオン再結合による微粒子の生成機 構についても取り組む予定である。